この研究は日本の製薬産業を対象としてその国際競争力を検討する。国際競争力の議論においては,国際競争の定義,測定方法についての不一致が混乱の原因となる。この研究では第1に国際競争力についての一般的定義を検討する。このとき,国の国際競争力に関する批判を検討し,国際競争力を国について定義することはできず,産業や企業を対象に対してのみ定義できることを示す。第2に,日本の製薬産業を対象にして既存の文献のデータを利用してその国際競争力を検討する。そこでは国際競争力を,世界各国で販売可能な医薬品を開発・販売する能力とし,これに関係すると考えられる各種の指標によって,各国間での比較を行うという手法をとる。この結果,日本の製薬産業や企業の国際競争力は欧米産業,企業と比較して,近年,向上しているが,幾つかの指標では依然と大きな格差のあることが示される。すなわち,日本の製薬産業の市場規模,R&D投資額等においては世界の20%を占めることが示される。他方,売上額やR&D投資額等で世界の上位企業に伍する規模の日本企業は少なく,これが日本の製薬産業の特徴であることが示される。1980年代以降,日本の製薬企業はR&Dを重視して,革新的な新薬を開発することを重視し,またその製品を外国で販売するために,企業買収,技術提携,合弁企業の設立 等が多くなされているしかし、これらの方法は依然として成果をもたらすには至ってい ないことが示される。特に,特許データで見た企業の「総技術力」や,国際的に販売される新薬,新規の構造を持ち,薬効上の向上の著しい新薬等において欧米企業に後れていることが示される。